ダイヤモンドメディア白書2026
オーバービュー
第1章 調査概要
第1章では、アンケートに回答したメディア企業104社を対象に、生成AIの導入状況、活用内容、期待する効果と実際の成果、課題、運用体制とガイドライン整備、生成AIがもたらす影響について調査した。
調査を通じて浮かび上がったのは、メディア産業において生成AIの活用が確実に進んでいる一方、その広がり方が“なんとなく”であり、経営判断としての明確な位置付けがあまり定まっていないという課題である。
全体の8割の企業が何らかの形で、生成AIを導入しており、「使うか、使わないか」を議論する段階は終わっている。しかし全社的に導入している企業は全体の3割弱にとどまり、残りは一部部署での導入や個人判断での利用である。さらに、生成AIを導入している企業のうち4割超が、明確なガイドラインを持たないまま活用を進めている実態も明らかになった。
生成AIに期待する効果として最も多く挙げられたのは「既存業務の効率化」(75%)と「制作スピードの向上」(74%)であり、実際の成果も、これらの領域に集中している(「既存業務の効率化」が55%、「制作スピードの向上」が52%)。
一方、「新規事業の創出」や「データ分析や意思決定の高度化」といった、より高度な活用については、メディア各社の期待も成果も限定的だった。現時点における生成AIの活用は、目の前の業務を「速く」「軽く」する領域にとどまり、企業の価値創出や経営の根幹に関わる成果はまだ多くはない。
生成AIの活用における最大の課題は「品質・正確性」(59%)と「法的リスク」(58%)である。特に法的リスクへの懸念の高さは、メディア産業が著作権を保持するコンテンツ制作者であるという立場を反映している。メディア企業は、他者の著作権を侵害する可能性と、自社のコンテンツが無断で侵害され、学習データに使われる可能性の両方に敏感にならざるを得ない。
生成AIの導入に関する意思決定は、企業ごとに多様な形態が併存している。経営企画部門が判断する企業(29%)、IT部門が担う企業(27%)、各部署の判断に委ねられている企業(25%)など、組織的な管理体制が定まっていない状況が見て取れる。企業規模が大きいほど専門化・組織化される傾向があり、小さいほど現場依存の形を取っている。
生成AIの影響については、「良い影響が多い」「良い影響が非常に多い」と答えた企業は合わせて56%と過半数を占めるものの、「現時点では判断できない」と回答した企業も33%に上る。生成AIを「機会」と捉える企業は48%、「脅威」と捉える企業は15%だが、「わからない」が13%あり、評価が定まっていない実態が浮かび上がった。
5年後に向けた生成AIの活用意向を見ても、経営判断や事業戦略への活用を志向する企業は少数派にとどまり、多くは現在の活用状況の延長線上にある。生成AIを事業の中核に据えようとする動きは限定的である。
活用は進んでいるが、判断は定まっていない——。これが、本調査が示すメディア産業における生成AIの現状の姿勢である。大半のメディア企業において「自社では、生成AIをどのように活用するのか」という経営判断が先送りにされている。この位置付けが明確になって初めて、どのような業務に使い、どのように管理し、どういったリスクを許容するかが定まってくる。
8割以上のメディア企業が生成AIを導入し、すでに何らかの成果を感じていることを考慮すると、生成AIの活用は待ったなしといえるだろう。だからこそ、生成AIという新しいテクノロジーを、自社の中でどのように位置付けるかという経営判断が求められている。
第2章 調査概要
第2章では、メディア企業の経営者・経営層を対象に、既存メディアの現状認識、デジタル化の影響評価、今後の成長戦略、DX推進の課題、人材確保と育成、未来に向けた事業展望について調査した。
調査を通じて浮かび上がったのは、メディア企業の経営者がメディア産業の地盤沈下を認識し、現実的な対応を模索しているものの、魅力的な未来像を描けていないという構造的な課題である。
既存メディアの地盤沈下の原因として、経営者の多くは「SNSの浸透」(85%)や「情報発信主体の多様化」(73%)といった外部環境の変化を挙げた。ただし従業員1000人以上の大企業では回答企業全てが「デジタル化への対応の遅れ」を選択しており、内部要因の認識が強い。企業規模が小さくなるほど地盤沈下の原因を外部環境に求める傾向が見られた。
デジタル化の影響については、「仕事の進め方を考え直すきっかけになった」(73%)、「顧客や視聴者の情報接触・購買行動が変わった」(64%)との回答が多く、業務と顧客接点の変化が強く認識されている。自由記述では、発信方法の多様化、読者との直接的な接点の確立、新規事業の創出など、前向きな成果も報告されている。
成長を期待する事業では、「既存事業」(68%)と「新規事業」(60%)が拮抗し、多くの経営者が両者を並行して進める戦略を描いている。未来の方向性でも「完全なインターネット移行」との回答は5%にとどまり、配信強化やIPビジネス、外部連携といった段階的な施策が選ばれている。
5年後の事業像として、アンケートに回答した78%の経営者が「既存事業の延長線上にある進化型」を選択した。しかし、学生の就職先としてメディア企業が不人気とされる最大の理由に、75%の経営者が「業界の将来性への不安」を挙げている。これは外部評価ではなく、経営層の自己認識である。
DX化の最重要課題では、6割以上の企業が「デジタル人材の確保・育成」と「社内のリテラシー向上」を挙げた。しかし経営幹部候補の育成については約半数が「特別な教育はしていない」と回答しており、戦略を実行する人材基盤が整っていない実態が明らかになった。
魅力的な未来像が描けていないために人材が集まらず、必要な人材が不足するためにDX化が進まず、DX化が進まないために新しい事業モデルが生まれにくい——という連鎖が起きている可能性がある。
本調査が示すのは、メディア産業の危機ではなく、メディア産業の再定義の必要性である。情報を届け、文化を形成し、人々の判断を支えるというメディアの役割は、デジタル時代においても失われていない。むしろ情報が氾濫し、信頼の基盤が問われる時代だからこそ重要性は高まっている。
メディア産業の最大の課題は「変化できないこと」ではなく、「変化の先に何があるか」を明確に描けていないことにある。メディアの役割を新しい形で再定義し、それを未来像として示すことができたとき、人材が集まり、DX化が進み、持続可能な事業モデルが生まれる。
第2章で経営者が示した現状認識は、その再定義へ向かうための出発点である。
第3章 調査分析の概要
第3章では、新聞通信調査会「メディアに関する全国世論調査」(2008〜2024年)、総務省「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」(2012〜2024年)を中心に、NHK放送文化研究所「全国メディア意識世論調査」(2020〜2024年)を参照しながら分析を行った。新聞通信調査会および総務省の調査はメディアの信頼度を時系列かつ直接的に把握できるものであり、本章の分析はこれらを基に進めている。
一方でNHK放送文化研究所による調査は信頼度を直接測定するものではないが、利用状況や効用評価、情報に対する意識を通じて、信頼の在り方を補足的に読み解くための材料として位置付けている。
これらの調査はいずれも利用者のメディア評価を継続的に追った大規模調査である。時系列での推移を確認することで、単年の報告書だけでは見えにくい変化の方向性と構造を捉えることができる。
3調査の分析を通じて浮かび上がった主要な知見は、主に以下の4点に集約される。
(1)信頼度は長期的に低下している
新聞、テレビ(NHK・民放)、ラジオ、雑誌、インターネットのいずれにおいても、信頼度は長期的に低下傾向にある 。ただし、低下の度合いやタイミングはメディアによって異なる。
(2)利用するメディアと信頼するメディアの乖離が広がっている
インターネットは日常的な情報行動において利用の首位を占める一方、信頼度では新聞・テレビを一貫して下回っている。YouTubeやSNSも影響力の大きいメディアとして認識されているが、情報の真偽確認の手段としては支持されていない。利用するメディアと信頼するメディアの乖離が広がっており、信頼していないメディアを日常的に使うという情報行動が常態化しつつある。
(3)信頼度の判断基準が曖昧化している
新聞やテレビは依然として「信頼できる情報を得る」目的で高い評価を維持している。一方で、「情報の真偽を確かめる」ための手段としては、いずれのメディアも過半数の支持を得ていない。また、信頼の理由として「なんとなく・特に理由はない」という回答が増加しており、信頼のよりどころが分散・希薄化している。
(4)世代によって信頼の意味合いが異なる
若年層ほどメディア信頼度が低いが、それは特定のメディアを全面的に信頼することはないという情報行動の反映でもある。若年層は「世の中を知る」「楽しむ」「影響を受ける」といった目的ごとにメディアを使い分けており、単一のメディアに包括的な信頼を委ねていない。世代間の差異は、メディアへの価値観の違いというより、利用目的やメディア環境の違いに根差している。